(15日、第107回全国高校野球選手権大会2回戦 東洋大姫路―花巻東)
選抜大会への出場を控えた2月下旬。東洋大姫路(兵庫)の3年生の投手陣は、岡田龍生監督のもとへ「直談判」に向かった。
監督がいるグラウンド横の建物に10人以上が集まり、阪下漣投手(3年)はこう言った。
「山崎さんを投手コーチとして残していただけませんでしょうか」
山崎崇正さん(34)。兵庫県姫路市にある「アスリートハウスS」のトレーナーで、23年冬から、東洋大姫路の準備運動のメニューを考案するなど、外部コーチとして携わってきた。
さらには投手陣を中心に、骨格や筋肉の動き方など、一人ひとりに合わせたアプローチでアドバイスする投手コーチの役割も担っている。
木下鷹大投手(3年)は「野球の知識が豊富で、自分の考えに対して、いろいろな角度から助言をくれる。いまがあるのは山崎さんがいたから」と信頼を寄せる。
ただ、山崎さんは25年3月末でチームから離れることが決まっていた。
「やっぱりチームに残ってほしい」。投手陣の心は一致していた。
残ってほしい理由を、阪下投手は岡田監督にこう説明した。
「なぜこの練習をするのか、この動作が必要なのか。その意図を説明しながら指導してくれる。自分たちの中で理解を深めながら野球ができる」
投手陣の声が後押ししたのか、山崎さんはチームに残ることが決まった。だからこそ、投手陣の思いも強くなった。
「山崎さんへの恩返し。夏の甲子園に絶対に行く」
阪下投手をけがで欠く中、木下投手を中心に春の兵庫県大会、近畿大会と公式戦は無敗。西垣虎太郎投手(3年)や森皐葵投手(3年)が台頭し、夏の兵庫の頂点に駆け上がった。
阪下投手や木下投手は「山崎さんがいなければ、夏の甲子園はなかった」と口をそろえる。
ただ、歯がゆさが投手陣にはある。エースとなった木下投手を支えるまでの結果を、他の投手陣が出せていないからだ。
「自分たちが山崎さんに残ってほしいと言ったのに、それではダメだ」。城下雄飛投手(3年)はそう振り返る。
兵庫大会では1試合あたり平均7.4得点と「強力打線」を誇る東洋大姫路だが、岡田監督は常々「投手を中心とした守備のチーム」と言う。
次戦の相手は、春の選抜大会で準優勝した智弁和歌山を破った花巻東(岩手)。城下投手は「自分のためではなく、誰かのためにという思いが強い。その誰かは山崎さんです」。投手陣の奮起が、見ものだ。